研修医が見た、競輪選手のプロ魂。

私の知人に内科のお医者さんの人がいます。
そのお医者さんの御実家はある競輪場の近くにあり、昔からその競輪場に出入りしていたそうです。
というのも、その御実家のお医者さんは競輪選手の出走前などの検診をするお医者さんで、その昔、その知人も研修医の頃にアルバイトで検診にかりだされていたんだそうです。
競輪の選手は体格も大きくさぞかし豪快な選手が多いのだろうと勝手に想像していた研修医時代の知人は、意外にも気の小さい選手が多かったことに驚いていました。
それは競輪選手という、大きなお金が動くギャンブルの世界で身一つで走る特殊な世界で生きているので、レース前は極度の緊張状態な選手も多いんだそうです。
その時のエピソードを幾つか聞いたのですが、競輪選手の胸に聴診器を当てるとかなり動悸が激しいのだそうです。
知人は「やはりレース前だから緊張しているんだ。
」と思いました。
しかしちょっと気になったので血圧も測ると、だいぶ上昇しています。
そして体温計で熱を測ると見事37度以上あります。
「これではレースには出られませんね。」と競輪選手に伝えると、「いえ、欠場するとファンのみんなに迷惑がかかるのでどうしても出ます。」そう言って聞きません。
でも規則上、相当なスピードで走るレースに判断力が落ちる体調での出場は認めるわけにはいきません。
研修医の知人は「ではあと30分後にまた体温を測りますから、そのときに熱が下がらなかったら欠場ですよ。
」と告げました。
研修医の知人は、恐らく30分経過しても早々体温は下がらず、逆に上がるだろうと思っていたそうです。
そして30分後、再び体温計で測ると見事に平熱になっていました。
その競輪選手は汗だくだったそうです。
聞けば、その30分の間にたくさんの水分を摂って、サウナスーツを着込んで、そしてランニングマシーンで大量の汗をかいてやってきたんだそうです。
下手すれば逆に熱は上がって身体は悲鳴を上げるであろう状態が、逆に熱を無理矢理下げたその選手に研修医の知人ももうお手上げだったそうです。
でもこのような状態で出走を許可してその選手が落車、または接触などでレースがおじゃんになってしまったとしたら、自分の行った診察での責任が大きく問われます。
知人はその選手の出走レースを祈るような気持ちで見守ったそうです。
結果的には無事完走どころか執念の一着。
プロの競輪選手の本番の強さをまざまざと見せつけられたそうです。
その知人は言いました。
「時にプロのスポーツ選手は医学の常識を超えることがある。」と。